2011年11月4日

「きみは見てはいるが観察はしていないのだよ」

    久しぶりに、シャーロック・ホームズの本を開いてみたら、いきなり名言に出くわした。シャーロック・ホームズが単なる娯楽小説でないことが、ほんの数ページ進むだけでも明らかになる。
 ホームズの推理はあまりにも鋭いのだが、種明かしをされると、特段どうということない誰でも気づいていたはずのことが多い。久しぶりに出会った相棒ワトスンがそのことをホームズに指摘すると、彼はかつて一緒に暮らしていた家の階段が何段あるか質問する。何百回もその階段を見ているはずのワトスンはまったく答えられない。そのときに、このセリフをホームズが吐くのだ。「きみは見てはいるが観察はしていないのだよ」・・・。
 ぼくらは日ごろ毎日目にしているものでも、いかにいろいろな大切なことを見落としていることか。ただボヤッと見ているだけで、じっくり見ていない。「観察」していないのである。そんなことでは、たくさんのこと、それも多くの大事なことを見逃していることになる。日常の中に常に鋭い目をもって、ものごとの本質を見抜く力を持ちたいなあ~~~ シヤーロック・ホームズのように。
(コナン・ドイル『シヤーロック・ホームズの冒険』石田文子訳、角川文庫、2010年、9ページ)